月末30分でやる、見積もり vs 実績の振り返り
見積もりの精度を上げる考え方そのものは、別の記事にまとめました。近いものほど細かく見積もる、成果物を起点にする、過去ログを参照する――そういう方法論の話です。ただ、その中で一つだけ、続けないと丸ごと無効になるものがあります。振り返りです。
方法論は一度知れば身につきますが、振り返りは毎月やらないと効きません。そして「毎月やる」がいちばん難しい。だからこの記事は、精度論の総論ではなく、振り返りを月末30分の“儀式”として続けるための、具体的な手順に絞ります。何を開いて、どの順に見て、何を残すか、という実務の話です。
前提:月末に「並べられる」状態にしておく
儀式を始める前提は、見積もりと実績が同じ単位で並んでいることです。「なんとなく多めにかかった気がする」では振り返れない。見積もった単位=成果物やタスクに対して、実測した時間が紐づいている必要があります。
これは月末に頑張ることではなく、日々の記録で決まります。作業のたびに、見積もりを置いた単位にタイマーで時間を積んでおけば、月末には「この成果物、見積もり8時間・実績13時間」という行が、探さなくても手元にある。逆に後から思い出しで埋めていると、この行自体がフィクションになって、振り返っても意味がありません。儀式を軽くする準備は、実は前の1ヶ月のあいだに済んでいます。
30分の中で、何を、どの順に見るか
儀式そのものは、だいたいこういう順番で回しています。参考までに、私のやり方を書きます。
まず最初の5分で、その月に完了した成果物を、見積もりと実績が並んだ状態でざっと眺めます。全部を精査しようとしない。ここでやるのは「大きくズレたものに目印をつける」だけです。見積もりの半分で終わったもの、倍かかったもの――極端なものを3〜5件、拾い上げる。
次の15分で、拾った数件を一つずつ見て、なぜズレたかを考えます。ここがいちばん頭を使うところです。あとで書くように、個別の理由より「複数にまたがる癖」を探すのが目的なので、一件ごとに深入りしすぎない。「これは仕様変更、これは自分の見立て違い」と仕分けていく。
最後の10分で、気づいたことを言葉にして残し、来月の一手を一つ決めます。次の節で書く「一行メモ」と「係数の調整」がここに当たります。時間が来たら、全部見終わっていなくても閉じる。これが続けるコツです。
見るのは、差ではなく「差の癖」
拾った数件を見るとき、つい大きく外した1件の反省に時間を使いたくなります。でも、拾うべきは個別の大外れより、外し方の癖のほうです。
一件ずつの差には、運や事故が混じります。あの成果物が長引いたのは、たまたま仕様変更が入ったからかもしれない。それを反省しても次に活きない。見たいのは、複数の成果物にまたがって現れる傾向のほうです。たとえば数ヶ月ぶんを並べて、「設計」と名のつく成果物だけを目で追ってみる。それがどれも見積もりより長いなら、それは事故ではなく癖です。
私の場合、はっきりした癖が二つありました。設計と調査は、ほぼ毎回見積もりより長い。実装は、意外と見積もりどおり。 これが分かってからは、設計・調査のタスクだけ最初から1.5倍くらいで置くようにして、それだけで全体のズレがかなり減りました。個別の案件をどれだけ丁寧に反省しても、この「係数のズレ」には気づけません。並べて、種類でまとめて、初めて見えます。
だから月末に問うのは「どれが一番外れたか」ではなく、「どの種類の作業で、いつも同じ方向に外れているか」です。同じ方向に繰り返し外れているものは、才能の問題ではなく、単に見積もりの係数がずれているだけなので、次から係数を直せば済みます。
数字の隣に、一行だけ理由を書く
振り返りで一番効いたのは、グラフを凝視することではなく、外した成果物に一行だけ理由を書き足すことでした。「仕様が固まる前に着手して手戻り」「レビュー往復を数えていなかった」「テスト環境の準備を見積もりに入れ忘れた」――こういう一行です。
このメモが3ヶ月ぶん溜まると、面白いことが起きます。同じ理由が繰り返し出てくる。私の場合、「レビュー往復を数えていなかった」が何度も出てきて、そこで初めて「自分はレビューのラリーを構造的に見落としている」と気づけました。一回ごとには小さな見落としでも、並べると自分の盲点が輪郭を持つ。数字は差の大きさを教えてくれますが、なぜ外したかまでは教えてくれません。そこは自分で言語化するしかなくて、30分の10分はこの一行メモに使う価値があります。
LayerClock には完了データから精度スコアの推移を出す機能もあります(詳細レポートは Business プランの機能です)。スコアは全体の傾向を掴むのに便利ですが、正直なところ、次の見積もりを直接変えてくれたのは、スコアの上下より、この泥臭い一行メモのほうでした。
儀式を続けるための三つの割り切り
月末振り返りが続かない理由は、たいてい「重くしすぎる」ことです。続けるために、私は三つ割り切っています。
一つ、時間を30分で切る。全案件・全成果物を完璧に検証しようとすると、二度とやらなくなる。気になった数件だけ見て、時間が来たら閉じる。完璧な振り返りを月に一度やるより、雑な振り返りを毎月やるほうが、半年後には圧倒的に効いています。
二つ、日を固定する。「月末のどこか」だと結局やらないので、月初の予定に30分の枠として置いてしまう。私は毎月1日の朝に入れています。予定になっていないタスクは、忙しい月に真っ先に消えるからです。
三つ、成果を一つに絞る。その月に一つでも「じゃあ来月から設計は多めに置こう」という調整が出れば、その回は成功。ゼロか百かにしない。三件も四件も直そうとすると、結局どれも中途半端になります。一つだけ確実に直す。
この三つで「軽いけど毎月回る」状態を作れれば、振り返りは勝手に積み上がっていきます。
振り返りは、直すためだけにやる
最後に一つ。振り返りは、自分を責めるためのものではありません。外したことに落ち込む時間ではなく、次の見積もりの係数を一つ直すための時間です。だから、うまくいかなかった月でも、調整が一つ出れば十分。「今月は全然だめだった」と落ち込んで終わるのは、時間の使い方としてもったいない。だめだった事実から、係数を一つ取り出せれば、その30分は元が取れています。
外し続けても、月末に直せば、半年後の見積もりは今より確実に現実に近づいています。逆に、どれだけ丁寧に見積もっても、この30分を飛ばせば精度は上がらない。方法論を知っているかより、この儀式が回っているかのほうが、最後は効きます。
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