ノウハウ

複数案件を掛け持ちするときの工数管理術

複数の案件を同時に抱えていると、「今月、あの案件に何時間使ったっけ?」だけでなく、「そもそも、決めていた配分どおりに動けていたんだっけ?」がわからなくなります。

私が副業で複数案件を並走させていた頃、頭の中では「A案件は3割、B案件は7割くらい」とおおまかな配分を決めていました。締切や納品といった帳尻は気合いでなんとか合わせるのですが、月末に振り返ると、本当にその配分で動けていたのかは感覚でしかわかりません。そして気づくと、A案件もB案件もそれぞれじわじわ膨らんでいて、合計すると本来のキャパの120%くらい働いていた——「最近やたら忙しいな」の正体がそれだった、ということが何度もありました。

忙しさの感覚はあるのに、その忙しさを「どの案件が」「どれだけ」食っているかという数字に落とせない。これが複数案件の工数管理でいちばん厄介なところだと思っています。この記事では、記録の設計から案件別の活用まで、その厄介さを潰していく方法を整理します。

複数案件で起きやすい工数管理の問題

想定した稼働配分と、実際の配分がずれる

複数案件を持つとき、多くの人は明示的にせよ暗黙にせよ「この案件にこれくらい、あの案件にこれくらい」という配分を持っています。契約で稼働率が決まっていることもあれば、自分の中の目安のこともあります。

問題は、その配分どおりに動けているかを月の途中で確認する手段がないことです。A案件30%・B案件70%のつもりが、実績ではA45%・B55%だった、というズレは、案件別の工数を数字で持っていないと気づけません。気づくのはたいてい、片方の案件で「思ったより進んでいない」と問題が表面化したあと。そのときには、もう配分を取り戻す時間が残っていません。

総稼働が100%を超えていることに気づけない

各案件の帳尻を個別に合わせていると、一件ずつは回っているように見えます。ところが全部足すと、自分のキャパシティを超えていることがあります。副業なら「平日夜と週末で月40時間まで」のような上限があるはずなのに、実際は各案件がじわじわ膨らんで、合計が上限を超えている。

これが「帳尻は合っているのに、なぜか常に忙しい」の正体です。総稼働を数字で見ていないと、120%で走っていることに自分で気づけず、感覚の「しんどい」だけが残ります。しんどさの原因が「どの案件がどれだけオーバーしているか」までわかって初めて、減らす・断る・単価を上げるといった手が打てます。

案件の工数が混在する

記録を案件別に分けていないと、「今日は複数の案件に時間を使った」という日が積み重なったとき、案件ごとの実態がわからなくなります。「全体で8時間働いた」という記録はあっても、案件Aに何時間・案件Bに何時間というデータが取れません。配分のズレも過稼働も、すべてこの「分かれていない記録」が原因で見えなくなります。

細切れの作業や切り替えの時間が記録から漏れる

複数案件を掛け持ちしていると、「ちょっとあの案件のチャットを確認して返信した(15分)」「もう一方の案件の仕様書を確認した(30分)」という短時間の作業が大量に発生します。一つひとつは小さくても、案件をまたいで一日に何度も起きるので、合計するとそれなりの時間です。これらが記録から漏れると、月次で見たときに実態より少ない工数が出てきて、「忙しかったのに記録は少ない」というズレを生みます。

案件別に記録を分ける——「プロジェクト=案件」で器を分ける

複数案件の工数を正確に把握するための前提は、たった一つ、記録が案件ごとに分かれていることです。

基本の設計は「プロジェクト=案件」。案件ごとにプロジェクトを作り、その下にフェーズ・成果物・タスクをぶら下げます。こうすると、案件単位の集計に加えて、「A案件のうち設計に何時間、実装に何時間」というフェーズ単位の内訳まで取れるようになります。後から「この案件はどの工程で時間を食っているのか」を分解できるのは、単価見直しの交渉材料としても効きます。

重要なのは、作業を始める前に「これはどの案件のタスクか」が決まっていることです。「今日の作業記録」という一つのバケツに全部放り込む記録の仕方では、あとから案件別に振り分けることはほぼ不可能になります。器を先に分けておく——これだけで、後半に出てくる「配分の可視化」がすべて成立します。

タイマーを「押す」ことが目的ではない——作業を区別して記録する

ここで運用の方向性を一つ整理しておきます。

「案件別に分けて記録しよう」と言うと、「案件を切り替えるたびにタイマーを止めて、別のタイマーを押して……」という、ボタンを何度も操作する運用を想像するかもしれません。これは続きません。忙しい日ほど切り替えが増え、押し忘れ・止め忘れが積み重なり、結局あとで手で直すことになります。タイマーを几帳面に押すこと自体が新しい負担になって、肝心の仕事を圧迫したら本末転倒です。

大事なのは、タイマーをたくさん押すことではなく、記録された時間が案件・作業ごとに区別されていることです。欲しいのは「区別された実績データ」であって、「こまめにボタンを押す習慣」ではありません。

だから理想は、操作の回数を増やす方向ではなく、減らす方向に設計されていることです。「今からやる作業(タスク)を選ぶ」という一つの操作だけで、その時間が正しい案件に自動で紐づく。別の作業を選んだ瞬間に前の計測が止まり、新しい計測が始まる。ブラウザを閉じても計測は続く。こうなっていれば、A案件→B案件→A案件と一日に何度切り替えても、こちらが意識して「押す」操作はほとんど発生しません。

区別して記録することと、操作を増やすことは別物です。後者に寄った仕組みは、忙しい人ほど破綻します。「ちゃんと押せる人」になろうとするのではなく、「押す回数がそもそも少ない」仕組みを選ぶほうが現実的です。

案件別サマリは「いつでも」見られることが大事

案件別の工数は、月末にまとめて集計するもの、と思われがちです。でも実際に効くのは、月末を待たずに、見たいときにいつでも案件別の状況が見られることです。

配分のズレも過稼働も、月末に気づいても手遅れです。「A案件に時間をかけすぎている」と月の半ばで気づければ、残り2週間で調整できます。月末に集計して気づいたときには、もうその月は終わっていて、できるのは「来月は気をつけよう」という反省だけ。月次レポートは結果の確認、いつでも見られるサマリは進行中の操舵です。配分をコントロールしたいなら、効くのは後者です。

そのうえで、見たい数字は次の3つです。

案件ごとの累計工数:今この瞬間まで、各案件に何時間使ったか。月末を待たず、いつ開いても最新の合計が見えること。想定より多い案件・少ない案件が一目でわかります。

キャパに対する割合:自分の総稼働可能時間(たとえば副業で月40時間)に対して、各案件が何%を占めているか。想定配分(A30%・B70%)とのズレがそのまま見え、各案件の割合を足して100%を超えていれば、それが過稼働のサインです。「気づけば120%」を、感覚ではなく数字で早めに捕まえられます。

実効単価:受注金額 ÷ 累計工数で、案件別の時間あたりの対価を計算する。「この案件は時間がかかる割に単価が低い」という発見が、感覚ではなく数字で出てきます。

これらが月末を待たずに見られると、「来週はA案件をセーブしてB案件に寄せる」「この案件はキャパの半分を食っているので次の更新で単価を見直す」といった判断を、月の途中で打てるようになります。

「忙しいのに実績が少ない」が起きる理由

複数案件を掛け持ちしていると、「確かに忙しかったのに、月末に記録を見たら案外少ない」という経験をすることがあります。記録が実感より小さいと、単価の根拠も配分の判断もすべて狂います。原因はだいたい二つです。

ひとつは、案件間の切り替え時間が記録されていないこと。「A案件の作業を終えてB案件に入る前に、頭を切り替えて少し整理した」という時間は、特定のタスクに紐づけていないと記録に残りません。掛け持ちが多いほど、この切り替えの回数が増え、漏れも積み上がります。

もうひとつは、打ち合わせ・調整・確認などの間接工数が記録から漏れていること。手を動かして「作っている」時間だけが仕事ではありません。メールの返信もMTGの準備も、その案件のために使った時間です。直接作業していない時間でも、案件に関わる時間はすべてタスクとして記録する——この意識がないと、実績は実態より痩せ細り、「忙しいのに数字は少ない」が起き続けます。

記録する習慣より、記録できる仕組み

複数案件を抱えているとき、工数記録の習慣化は特に難しくなります。忙しいときほど「後で記録しよう」という先送りが起きやすく、その「後で」が一番来ないからです。

習慣の力で記録を続けようとするより、「記録しやすい仕組みを作る」方が現実的です。前のセクションの繰り返しになりますが、効くのは操作を減らす設計です。

  • タスクを選ぶだけで計測が始まる(操作を最小化する)
  • タスクを切り替えると前の計測が止まる(止め忘れをなくす)
  • ブラウザを閉じても計測が継続する(環境変化に耐える)

これらが整っていると、「記録するための意思力」が要らなくなります。意思力を使わないからこそ、忙しい月でも記録が痩せず、月の途中で配分を確認できるだけの実績が溜まっていきます。

まとめ:掛け持ちで効くのは「混ぜない・頼らない・いつでも見る」

複数案件の工数管理でやることは、突き詰めると三つです。

ひとつは記録を混ぜないこと——案件ごとにプロジェクトを分け、切り替え時間や細切れの調整工数まで、どの案件のものか分かる形で残す。ふたつめは意思力に頼らないこと——タイマーを几帳面に押す運用ではなく、タスクを選ぶだけで時間が区別される仕組みに寄せて、忙しいときほど起きる「後で記録しよう」を構造で潰す。みっつめはいつでも見ること——案件別の累計工数とキャパに対する割合を月末まで待たずに眺め、想定配分とのズレや「合計120%」の過稼働を、まだ手を打てるうちに捕まえる。

そうやって数字が出てくると、感覚的な「忙しい」が、具体的な「A案件が想定より15ポイント多い」という配分の話に変わります。もっとも、掛け持ちが増えるほど記録の取りこぼしもゼロにはできないので、ここは完璧を目指すより「大きく外さない」くらいの構えのほうが続く、というのが正直なところです。

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